同じ契約書を2つのAIに通したら、取適法違反の検出数が0件と9件以上に分かれた話
「AIに契約書を読ませれば、どのツールでも同じような結果が返ってくるだろう」——そう思っていませんか。
MOLTONでは、同一の製造委託基本契約書を、他社のAI契約レビューツールとクラウドリーガルの両方に通す検証を実施しました。結果として見えてきたのは、単なる「精度の差」ではありませんでした。ツールによって、取適法違反の検出件数が0件と9件以上に分かれたのです。
検証の前提
題材は、甲(委託者)と乙(受託者)が登場する「製造委託基本契約書」。両ツールとも「甲(委託者)」の立場でレビューさせました。
この契約書には、以下のような問題を意図的に仕込んであります。
- 取適法違反のおそれがある条項:支払期日「翌々月末」(60日超)、振込手数料の乙負担、協賛金の要求、代金決定の「別途協議」のみ(買いたたき類似)、1年以内・理由不問の返品権、発注変更の一方的決定、知的財産の無償譲渡など
- 編集ミス・構造的不備:第14条で第1項が2つ存在する(項番号の重複)、解除事由の典型パターンの欠落
- 欠落条項:報復措置禁止条項、不可抗力条項、遅延利息規定など
「これらをAIはどこまで拾えるか?」が今回の問いです。
結論:同じ契約書なのに、ここまで差が出た
先に結論をお伝えします。取適法違反の検出件数に9件以上の差が生じました。数の問題だけでなく、編集ミスへの対応や修正の細かさにも、明確な違いが現れました。
| 項目 | 他社AI契約レビューツール | クラウドリーガル |
|---|---|---|
| 取適法違反のキャッチ件数 | 0件 | 9件以上 |
| 元契約の編集ミス修正 | ✕ 放置、かつ新たな不整合も発生 | ◯ 修正・整合性を維持 |
| 修正粒度 | 条項丸ごと置換 | 単語・フレーズ単位 |
| 内部/外部向けコメント自動生成 | ✕ | ◯ |
以降では、なぜこれほどの差が生じたのかを順に見ていきます。
検証① 入力の設計
比較した他社ツールは、契約類型と自社の立場を選択式で指定する設計です。「製造委託・委託者」を選ぶと、内部的にレビュー基準が自動切り替えされます。
迷わず操作できる点はメリットですが、「微妙な立場」が表現できません。「委託者だが、取適法上のコンプライアンスは受託者保護的にしたい」「案件ごとに重視ポイントが変わる」といったニュアンスは、選択式では反映できないのです。
一方、クラウドリーガルはWordアドイン上のチャットで、立場と重視点を日本語で指示します。さらに取適法・秘密保持・フリーランス保護法などのプレイブックを呼び出すことができ、法令チェックリストを立場の設定とは独立して適用できます。この設計の違いが、次の検証で見る出力の差に直結しています。
検証② 出力の方向性
他社ツールの出力をひと言で表すなら、「甲有利をさらに強化する」方向でした。乙の納期遅延通知義務の追加、乙の損害賠償範囲の拡大——一見すると「甲の利益を守る修正」です。しかし、2つの重大な問題がありました。
取適法違反を1件も検出しなかった
支払期日「翌々月末」(60日超)、振込手数料の乙負担、協賛金要求、買いたたき類似条項——いずれも典型的な取適法違反のおそれがある条項ですが、全てスルーされました。
「委託者(甲)」の立場が設定されたことで、「甲有利な条項は指摘しない」というバイアスが働いたと考えられます。しかし、発注側であっても取適法違反は公正取引委員会の調査リスクになります。「甲側の立場」と「法令違反の是正」は、本来、独立して判断されるべきです。
編集ミスを放置し、新たな不整合まで生んだ
元契約の第14条の項番号重複は放置。さらに自身が追加した解除事由の号番号が「(7)→(6)→(8)」という順序で挿入される新たな不整合を生み出しました。そして、元から存在していた自動更新条項(第17条第2項)を誤って削除——このまま契約書が成立すると、1年で契約が終了してしまいます。
クラウドリーガルの場合
取適法プレイブックを呼び出すと、法的要件の充足有無が一覧化され、9件以上の違反・懸念箇所が検出されました。
- 支払期日「翌々月末」→「翌月末」へ修正(取適法3条1項)
- 振込手数料を「乙負担」→「甲負担」へ修正(同5条1項3号)
- 遅延利息条項(年率14.6%)を新設(同6条1項)
- 協賛金条項を全削除(同5条2項2号)
- 報復禁止条項を新設(同5条1項7号)
元契約の項番号重複は修正され、自動更新条項はそのまま維持されました。
検証③ 修正の粒度とコメント
他社ツールの変更履歴の中心は「条文を丸ごと挿入・削除」です。Word上の差分が大きく、相手方が「全面的に書き換えられた」と受け取り、交渉時に感情的な反発を招きやすい側面があります。
クラウドリーガルはWordの標準の修正履歴機能で、人間の弁護士が修正したのと同じ粒度で出力されます。第5条「翌々月末」→「翌月末」の修正であれば、「々」の1文字だけを削除するという最小差分で、意図が明快に伝わります。
さらに、同じ修正について「内部向けコメント」と「外部向けコメント」を自動生成し、ワンクリックでWordコメントとして反映できます。
内部向け(依頼者へ):「現状の翌々月末は60日超で取適法3条1項に抵触するおそれがある。修正必須。公取委調査リスクを避けるため、必ず通したい論点」
外部向け(相手方へ):「貴社のキャッシュフローに与える影響を考慮し、業界標準である翌月末への修正をご提案します」
「同じ事実を、相手に応じて翻訳する」——法務実務の本質的な作業の一つが、ここまで自動化されています。
おわりに
今回の検証が示したのは、「AI契約レビューの出力は、ツールの設計思想に強く依存する」という事実です。
立場が選択式で固定されるツールは、その立場に沿って最適化された修正を返します。それは定型処理では効率的ですが、法令遵守という観点では盲点を生む可能性があります。「どのAIでも同じ」は、少なくとも契約レビューの領域では成り立ちません。
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